TEAPOND三田祐也さん:紅茶と焼菓子のペアリング

「Cahier de Romi」4回目のお相手は紅茶専門店TEAPONDの店主、三田祐也さんをお迎えして、TEAPONDのダージリンティ-とromi-unieの焼き菓子のペアリングについてのトークをお届けします。

TEAPONDはインドやスリランカをはじめ、ネパール、中国、台湾など世界のお茶を取り扱う紅茶専門店です。

ティーポンド

店主の三田祐也さんが直接、現地の茶園まで足を運んで買い付ける紅茶も多く、romi-unieではその中からお店のお菓子に合うダージリンを3種類置かせていただいています。この日の対談は、ダージリンのプッタボン茶園の春摘み(ファーストフラッシュ)を飲みながらスタートしました。

 

ダージリンもヒマラヤのお茶のひとつ

ろみ 春摘みのダージリンは青い香りで、キリッとしていて緑茶っぽさもありますね。これは苦味がややしっかりめ?

三田 一口目は渋みや苦みを敏感に感じやすいので、今日みたいに暑い日は、低温で一晩水出しにするアイスティーにしたほうが、渋みが出にくくて、飲んだ後、喉にすーっと消えて香りだけが残る味わいを楽しめて、よかったかもしれませんね。

ファーストフラッシュ

ろみ TEAPONDさんはダージリンの種類だけでもいっぱいありますよね。いつも迷います。

三田 ダージリンはインド北部のヒマラヤに近い地域に広がる産地で、87茶園が紅茶をつくっています。すぐお隣のネパールにも買い付けに行くので、僕のなかではダージリンというよりも「ヒマラヤのお茶」という感覚で選んでいるんです。住んでいる人の顔立ちも、彫りの深いインド系の人とは違って、むしろ日本人の私たちに近くて、親戚のおじいちゃんにそっくり、みたいな人があちこちにいるんです(笑)。

ろみ お茶の店をやりながら、毎年のように茶園に行って買い付けてくる方は、そんなに多くないですよね。そこがTEAPONDさんは特別というか。

三田 もちろん買い付けに行かれる紅茶屋さんは他にもいらっしゃるので、僕たちだけではないのですが、買い付けのために足を運ぶことと、やはりお茶がつくられる茶園を見たいというか、紅茶が生まれる場所への好奇心が強くありますね。

ろみさんがフランスに行かれると、気分的にワクワクして、5cmくらい足が浮く感じがありませんか? 僕の場合はお茶の畑で同じくらい浮く(笑)。それと本に載っていることと、時代の変化で違っていることも、実際に現地に行ってみて気づくことがたくさんあります。

ろみ 今日はそんな現地のお話も伺いながら、3つのお菓子に合わせて紅茶を選んでいきたいと思います。

 

〈テーマ1〉romi-unieの定番サブレ6種類に合う紅茶
〈テーマ2〉3種のアイシングを使った新作のサブレに合う紅茶
〈テーマ3〉レモンカードケーキに合う紅茶

 

〈テーマ1〉romi-unieの定番サブレ6種類に合う紅茶

メゾンセット1

お菓子 サブレ6種(レモンクッキー/ショートブレッド/バター・ガレット/ディアマンショコラ/サブレ・コンプレ/サブレ・ド・ブーランジェ)

紅茶 「2021年 ダージリン オータムナル シーヨック茶園」「2022年シッキム ファーストフラッシュ テミ茶園」

 

サブレ1枚ごとに表情が変わる紅茶を発見

ろみ 最初の1杯は?

三田 これはお取り扱いいただいている秋摘みのお茶(オータムナル)のシリーズで、いちばん甘くてまろやかなタイプです。

オータムナル

ろみ 水色(すいしょく)がさっきとぜんぜん違う。春摘みのお茶はキリッとしていましたが、こちらはやわらか。うん、うん、おいしい。

三田 クッキーが紅茶液でほどけたときに口の中で合わさった感じがおいしいですよね。

ろみ どのサブレとも安心して合わせられます。特にレモンサブレの酸味とすごく合いますね。ほわーっと包んでくれる感じもあって。もう一つのお茶は?

三田 ダージリンよりさらに北のシッキムにある「テミ茶園」のお茶です。シッキムは300年ほど続いた王国で、1975年からインドの自治区になったのですが、歴史的にチベット系の民族が多く住む地域で、外国人は入国許可書が必要です。そこに官営農園が一つだけあって、それがテミ茶園です。

ファーストフラッシュ シッキム

ろみ これも春摘みのお茶ですが、さっきの青みのあるお茶とちがって、独特の甘みと旨みがありますね。

三田 同じテミ茶園の春摘みでもいくつかサンプルが届いて、これより青みの強いものもあったのですが、春摘みの初々しさと夏摘み(セカンドフラッシュ)の味わいの厚みを併せ持つめずらしいタイプを今回初めて選んでみました。

Sable‗Tea

ろみ サブレを間に挟むと、次に紅茶を飲んだ時に、また違う風味が立つ感じもあります。

三田 長時間テイスティングをするとき、口が渋みに慣れてくると、リセットのために食パンを食べることがあるのですが、サブレの粉感がいい感じでお茶をリセットして新しい風味を感じさせてくれるのかもしれません。

ろみ ミントとかメントールのような爽やかな風味もあって、ショートブレッドやバターサブレのようなバター系のものが自然に食べたくなってきますね。お茶とお菓子のペアリングって、毎回新しい発見があって、本当に楽しい。

三田 春摘みのなかでは落ち着きある甘さと旨みも少しあって、個人的にとても気に入っているお茶です。

 

ダージリンが特別であり続ける理由

TEAPOND紅茶缶

ろみ 同じ茶園でも、お茶の風味は変わるものですか?

三田 同じ茶畑と工場設備でつくっていても、その日の気候条件や製造工程のわずかな差で、味わいや香りが大きく変わってしまいます。摘み取りから製茶まで、掌(つかさど)るのは結局は人なので、現場のマネージャーさんが変わると、あれっというくらいつくられる紅茶のクオリティーが変わりますね。

ろみ 人によっても変わるんですね。

三田 加工の最初の段階に「萎凋(いちょう)」という工程があって、適度な水分を残しながら茶葉をしおれさせるんですが、紅茶の味の8割を決めると言われています。ニルギリなどでは、自動で均一に管理できるシステムを持っているところが増えているなか、それが一切ないのがダージリンなんです。いまも人が目で茶葉の状態を見て、送りこむ風の量や温度で水分量を調整しています。

その後の、茶葉を揉む作業では機械を使いますが、ここでもマネージャーが付きっきりで茶葉に加える圧力を調整したり、タイミングを見極めて、揉み終えたら、茶葉を出して広げて、基準に満たない茎を手作業で選別しています。手と目をしっかりかけないとできない、それがダージリンなんです。

ろみ だから産地として一目置かれているんですね。

三田 ダージリンは茶畑も急な斜面にあるので機械が入れられず、基本は手摘みです。

ろみ いまも手摘みなんですね。

三田 畑に行くと、風の音や鳥の鳴き声のあいだから、プチプチッと茶葉を摘む音が聞こえるくらい静寂が広がっています。途中でお茶摘みをしている女性たちの歌声も聞こえたりして。

ろみ プチプチッて、茶葉を摘む音が聞こえるんですか!? 

三田 はい。機械化があまり進んでいないのもダージリンの特徴で、だからこそ残る味と香りがあって、生産量も少なく、稀少性も高いんです。ただ、みんながダージリンのようなつくり方になると、価格も高く、紅茶がお金持ちだけの飲みものになってしまう。

機械化、効率化をはかって手頃な価格のお茶をつくる産地や生産者も必要で、だからこそダージリンも差別化ができて一つの個性が築き上げられてきたんですね。

ろみ 気軽においしく飲めるお茶も必要ですからね。三田さんのお話を伺うと、ダージリンが特別な理由がとてもよくわかります。

 

〈テーマ2〉3種のアイシングを使った新作のサブレに合う紅茶

アイシングクッキー

お菓子 3種のアイシングクッキー(バニラ、フランボワーズ、レモン)

紅茶 「ダージリン セブンバレー セカンドフラッシュ オリジナルブレンド」「ダージリン セカンドフラッシュ シンブリ茶園 」

 

新作のアイシングクッキーが登場!

ろみ 次は3種類のアイシングクッキーです。

三田 おいしい。色もきれいですね。

ろみ 定番人気のレモンクッキーと生地は一緒で、アイシングをバニラとフランボワーズに変えています。

セカンドフラッシュ

三田 セブンバレーを淹れてみました。こちらもお取り扱いいただいている茶葉ですね。

ろみ いつも家で飲んでます。わたしのなかでだんだんTEAPONDさんのお茶の味がこれになってきた。

三田 バニラのこもる甘さとダージリンの相性がいいですね。

ろみ バニラとバターがいい。あーおいしいなー。お茶とお菓子のいいバランスを感じる。

三田 フランボワーズも僕は好きです。酸味の輪郭がしっかりきれいに出て。

ろみ 素敵な表現。ぜんぜんそんなふうに言えない(笑)。

三田 もともとフランボワーズ系の香りのお茶とかお菓子が好きなんです。これは定番ではないんですか?

ろみ はい、フランボワーズとバニラは新作です。アイシングを1枚ずつ刷毛で塗って、1回オーブンでさっと水分を飛ばしたものを乾燥機に並べて乾かしています。油断すると湿気を吸っちゃうので、湿度の高い時期は特に乾かすのが大変なんです。

アイシングクッキー

三田 茶葉もそうですけど、アイシングもモイスチャーの管理がたいへんなんですね。

ろみ そうなんです。ところで、フランボワーズと合わせたら、お茶の旨みがグググと出てきましたよ。

三田 どっちかが負けるかな、と思ったんですが、どちらも立ちますね。

ろみ これがセブンバレーの底力ですよ。セブンバレーは夏摘みのお茶でしたよね。

三田 はい。夏摘みのお茶は、秋摘みと比べて、しっかりしていて、バター系のものとも合います。みなさんが想像する王道のダージリンは夏摘みのお茶ですね。秋摘みは少し落ち着いた穏やかさがあって、何でも受け止めてくれる。

ろみ なるほど。夏と秋のお茶の違いが少し理解できました。

 

バニラの香りが華やぐ、すっきり系ダージリン

三田 春摘み(ファーストフラッシュ)のお茶が店に並ぶのは夏で、その頃の気候には、喉越しがよくて、水出しでアイスティーにしてもおいしく楽しめる春摘みはぴったりです。温かいお茶とバターの効いたお菓子がおいしくなる秋には、夏摘み(セカンドフラッシュ)のしっかりとしたお茶が届き始める。

不思議と、その時期に体が欲しくなる季節の食べ物や気温に合わせて体調にあったお茶が入ってくるので、それもシーズナルティーの楽しみとしていいなと思います。ところで、同じ夏摘みでも印象の違うお茶があるので、次はそれを淹れましょう。ダージリンのシンブリ茶園のお茶です。

ろみ これは渋みが全然ないです。まるい感じもありながらすっきりしていますね。

三田 例えばダージリンでは、チャイナ種と言われる品種の茶樹を種から育てる方法と挿し木で増やす方法があるのですが、種から育てた茶樹は、しっかりと土壌に根を深く伸ばし、丈夫で、味わいも心地いい渋みや深みがある味わいになります。対して挿し木は渋みの少ない、さっぱりとした味わいのお茶になるんです。

ろみ 種か挿し木かでも、味わいは違ってくるんですね。

三田 茶樹は種から育てると遺伝子が変わってしまう性質があるので、優良品種を挿し木で増やす方法も一般的なんです。挿し木で一つの畑を同じ遺伝子の茶樹にすると、香りや味の個性が均一になります。シンブリ茶園のこのお茶は挿し木で増やしたシングルオリジン(単一畑)の茶葉で、くちなしの花のような甘い香りもします。

アイシングクッキー

ろみ これ、バニラと食べるとおいしいです。バニラの香りが華やぎますね。

三田 本当だ。バニラの香りと合わさって、お茶がまた別の印象になります。

ろみ シンブリ茶園の夏摘みとバニラのアイシングクッキーは、今まで知っている紅茶と焼菓子のマリアージュからステージが一つ上がった感じ。皆さんにもぜひ体験してほしい。

三田 このお茶は茶葉が壊れないように、ちゃんと木箱に入って来るんですけど、それくらい大切につくって特別に運ばれてくるお茶です。

ろみ セブンバレーと食べ比べ、飲み比べをしてみると、同じお菓子でもお茶によって印象が変わるということがわかって、すごく楽しいセットになりそうです。

 

〈テーマ3〉レモンカードケーキに合う紅茶

レモンカードケーキ

お菓子 レモンカードケーキ

紅茶 「ダージリン セブンバレー セカンドフラッシュ オリジナルブレンド」「2022年 ネパール イラム ファ―ストフラッシュ ミストバレー茶園」

 

レモンカードの酸味をきれいに引き立てる紅茶

セカンドフラッシュ

ろみ 引き続き、セブンバレーも合わせていきましょう。

三田 シフォンケーキの中にレモンカードがたっぷり入っているんですね。さっきもそうでしたけど、セブンバレーのような夏摘みのダージリンに酸味系のお菓子を組み合わせると、味の輪郭がきれいに見えていいですね。

ろみ 本当ですね。レモンのお菓子は紅茶と合わせると、へんな生臭みが出るときがあるんですけど、これは全然なくてびっくり。間にクリームだったりシフォンケーキの生地が入るからかな。

レモンカードケーキ

三田 レモンティーにするときも、紅茶の渋みが出るイメージがあったので、レモン系のお菓子は合わせづらいんじゃないかと思っていましたが、お菓子とお茶、それぞれの風味が素直に感じられますね。

ろみ ネパールのミストバレー茶園は軽やかで、春風のマリアージュという感じ。爽やかに楽しめるのがミストバレー茶園なら、セブンバレーは郷愁というか、懐かしい感じがします。飲みつけている感じもある。それぞれ方向性は違うけど、どちらも合いますねー。

三田 セブンバレーは昔ながらのケーキとお茶の時間。由緒正しい感じ。ミストバレー茶園も違和感がないですね。レモンのさっぱり感が合うのかな。僕はミストバレー派かな。

ろみ 春風派(笑)。

三田 ミストバレー茶園のあるネパールのイラムという地域は、ダージリンと目と鼻の先にあってとても近いんです。

ろみ そうなんですね。

三田 とはいえ、ネパールの人からみても「あんな田舎に行ったの?」と驚かれるような人里離れた場所らしく、初めて行ったときは、グーグルマップから道が消えるくらいの田舎で、道中ずっと車がバウンドしていて、乗馬のように揺れながら道なき道を走った記憶があります。

ろみ 道が消えるって……すごいところにあるんですね。

三田 今はずいぶん道もよくなったのですが、それでも大きなトラックでお茶をどうやって運んでいるんだろう、と本当に心配になるくらいの道です。

ろみ よくぞここまでいらっしゃいました。大切に味わいたいお茶ですね。

 

産地のストーリーと一緒にお茶を楽しむ

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三田 日本から見ていると、茶園では昔から変わらず伝統の味に則ってつくっているイメージがあるかもしれませんが、産地の人たちは世界の味覚のトレンドにとても敏感で、訪ねて行くと、どんなタイプのお茶が欲しいのかといつも聞かれます。

ろみ 味覚のトレンドって変わりますからね。

三田 改良のスピードも早くて、決してスローな農業という側面だけではないですね。手仕事的な細かい作業もやるけれど、マーケットに素早く対応する機動力もある。一つの茶園に両面が共存しているので、とても刺激的というか、学ぶところが多いですね。伝統に安穏としていない。

ろみ お話を伺っていると、熱量の違いを感じます。

三田 今はこういう時期なので、3年ほど産地には行けてないのですが、すべてに人が関わっていることなので、お茶と一緒にストーリーをお届けしたいというのはいつもどこかにありますね。

ろみ 畑でお茶を摘むプチプチッという音が聞こえるなんて、三田さんに教えてもらわなければ、一生知らないことでした。

三田 現地に行くと、1日に行ける茶園は2つか3つなので、サンプルを日本に取り寄せて、横並びでいろんな茶園の茶葉を比べるほうが効率はいいのですが、やっぱり会ってお話したり、一緒にテイスティングをすると、味わいや香りが共有されているで、あとでメールのやりとりをするときに、好みのお茶の希望を伝えたりもしやすいです。

ろみ なるほどー。そこは違ってくるでしょうね。

三田 産地に行っているから素晴らしい買い付けができるとは限らないですし、それが絶対ではないのですが、現地の人とコミュニケーションをとることは、TEAPONDにとっては必要なプロセスですね。

ろみ 今日はとても刺激の多いお話でした。これからも、産地のお話をいっぱい届けてくださいね。

 

TEAPOND 三田さんプロフィール

三田祐也
1976年生まれ。外資系と日本の紅茶専門店勤務後、2010年に共同経営者の藤本康弘氏とともに紅茶専門店TEAPONDを設立。オンラインストアからスタートし、2014年に本店を清澄白河にオープン。その後、青山店、大阪の梅田店が加わり現在、全3店舗を運営する。

TEAPONDホームページ www.teapond.jp
twitter @TEAPOND
Instagram @teapond.jp

イベント「秋のTEAPOND TEA CLUB」を開催します

ダージリンティーと焼き菓子のペアリング対談、いかがでしたでしょうか。茶葉の産地のお話もたくさん伺いながら、1杯の紅茶が私たちの元にやってくるまでの旅を一緒にさせていただけた気がしました。

今回、対談でペアリングしたダージリンティーと焼き菓子を販売するイベント「秋のTEAPOND TEA CLUB」を9月11日(日)に鎌倉・西御門のAtelier bisで開催することになりました。

ダージリンティーの中でも産地や収穫時期で味わいが変わる面白さと焼菓子との相性をぜひ体感していただけるとうれしいです。
「秋のTEAPOND TEA CLUB 9/11(日)開催のご案内」

Web Shopでもセレクトしたセットを販売

今回ペアリングした組み合わせの中からセレクトした茶葉とお菓子のセットをイベント終了後の9月29日(木)12時よりWeb Shopで予約販売いたします。セットの詳細は、9月中旬頃にHP・SNSでご案内する予定です。こちらもお楽しみに!

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