1月15日に20周年を迎えた、Romi-Unie Confiture。
その記念企画として、romi-unieとともに歩んでくださった方とのトーク「romi-unie TALK」の企画がスタート。
第二弾の今回は、菓子研究家の福田里香さんです。
Romi-Unie Confiture立ち上げのとき、お店のロゴやジャムのタグ、ラッピングのコーディネートなど、お店のプレゼンテーションの核となる部分を一緒に考えてくださったのが里香さんです。
対談は、いがらしがパティシエ見習いをしていた20代前半、繰り返し手にとっていた里香さんの本のお話から始まりました。
突然送られてきた招待状
ろみ 里香さんのことを知ったのは、フランス菓子店の「ルコント」で、パティシエ見習いを始めた20代前半でした。渋谷に当時、キッチン雑貨好きに人気の「ウィリアムズ・ソノマ」のショップがあって、そこで里香さんの本を見つけたのが最初です。
里香 懐かしい。90年代のキッチン雑貨好きには、憧れの店でしたね。
ろみ 勤務先が青山だったので、仕事帰りにふらりと立ち寄っては、本棚にあった里香さんの本をめくってたんです。
里香 初めて出した自分の本(『お菓子の手帖』と『果物の手帖』)なのでよく憶えてます。「ウィリアムズ・ソノマ」に置いてほしくて、直談判に行ったんですよ。
ろみ 直談判!?
里香 そう。でも店員さんに「アメリカ本国の許可がいります」と言われてすぐには置いてもらえなかった。
ろみ すごい行動力ですね。
里香 そのあと審査してくださって、OKが出たの。ソノマのオリジナルじゃないレシピ本としては、唯一置いてもらえた本じゃないかな。
ろみ わたしは、そこで初めて里香さんの存在を知って、それまでの菓子研究家の系譜とはまったく違う匂いをかぎとったんだと思います。どこかポップで、シンパシーと言っていいのか分からないんですが、本からものすごく何かを感じたんです。
里香 ろみちゃんは、最初、わたしに手紙をくれたんだよね。そのころ、「アシスタントにしてください」とか、「どうやって菓子研究家になったのか、話を聞かせてください」みたいな手紙は何人かからもらってたんだけど、他の人とアプローチの仕方が全然違った。
ろみ 確かにそうだったかもしれません。
里香 「恵比寿のレストランバーでタルト食べ放題まつりをやるので、来てください」って、招待券が入ってて。「えーっ! なにこれ」ってびっくりですよ。それプラス、自分が載った新聞のコピーも自己紹介として同封してたでしょ。
ろみ 恥ずかしい…。
里香さんがお菓子教室をやっているとか、コンタクトできる場所があれば、わたしもそこに行ったと思うんですけど、なかったから呼ぶしかない。
里香 そうだけど、あれには意表を突かれた。でも、単に話を聞かせてくださいっていう人とは姿勢が違ったから、すごくいいなと思って。最初のイベントには行けなかったけど、次のチョコレートまつりに行って、そのときに初めて会ったんだよね。
ろみ 最初のイベントに来られないときも、「頑張ってね」ってお電話をくださって。うれしかった。でも、そういうことをしたのは里香さんしかいないんです!
音楽をお菓子に置きかえたら…
里香 わたしは、そのとき初めて「フードイベントって、自分でやっていいんだ」と、ろみちゃんのイベントで気づかせてもらえた。他でやってた人はいたかもしれないけれど、少なくとも、わたしの周りでは初めてで、本当に早かったと思う。
そもそも、どうしてフードイベントをやろうと思ったの?
ろみ そのころ通っていたレストランバーが、DJや音楽のイベントをよくやるところだったんです。自分はDJはできないけれど、音楽をお菓子に置き換えたら、何かできるかもしれない、と閃いて、オーナーさんに相談したら、いいよ、と言ってくれて。定休日に場所を貸してもらったのが最初です。
里香 踊る代わりに、食べてください、だったよね(笑)。
ろみ ほんとにそんな感じで、わたしのなかでは、ピアノの発表会と変わらない感覚でした。
里香 それまでにも、イベントの一部としてケータリングチームがフードを担当することはあったけど、個人でフードメインのイベントを企画してやっている人はいなかったから、ものすごく衝撃的だった。日本のポップアップイベントの幕開けだったんじゃないかな。わたしが2000年からフードイベントを始めたのは、完全にろみちゃんの影響。
ろみ 里香さんをはじめとしたフードユニットが主催していた、「EAST-WEST KITCHEN LINE(イーストウエストキッチンライン)」も楽しかったなぁ。
里香 参加してくれた人が、みんな地下鉄東西線沿いに住んでいたのが名前の元になっていて、ろみちゃんをいちばんに口説きに行きました。
ろみ 新宿区育ちでよかった(笑)。当時は一緒にやることを「連結」って言ってたんですよね。
里香 そう。みんなそれぞれ一国一城の主みたいな感じだったから、混ぜて一つのことをやるというより、得意なものを連結してイベントにしていくみたいなイメージだった。
2002年に池袋のシネマロサで初開催した「チェーを食べながらベトナム映画を観る会」から参加してくれたよね。
ろみちゃんは「ジャムで参加したい」って、連結してくれたね。
ろみ マンゴーキャラメルをつくったのは憶えてるんだけど、ジャムで何をつくったか思い出せないなー。
里香 そのときのジャムも飛ぶように売れて、またびっくりしたんだよね。おいしいし、かわいいから、いつも一番人気。
ろみ 自分でフードイベントを始めたころは、あまりマニアックになりすぎないフランス菓子をやりたいと思って、タルトやチョコのイベントを企画したんです。それが、ジャムをつくり始めたら、本当によく売れ出して。これはジャムをもっとやればいいんだと、イベントを通して自分の道がだんだん見えてくる感覚はありました。
そのころに知り合った軽井沢の瓶詰め屋さんが一緒にやりましょう、って言ってくれて、鎌倉のお店の立ち上げにつながったんです。
里香 コンフィチュールブームも起こったしね。
ろみ そんな気配もあったので、「お店をやったら、お客さん来てくれるよね」って、なんの疑問も持たずに始めたんです。でも、明日オープンっていうときに、「やばい、これイベントじゃないんだ」って気づいて、遠い目になったことは憶えています。でも、タイミングよくブームにのっからせてもらえて、助けられました。
金言「包装までが製菓です」
ろみ 里香さんには、オープン当時にジャムを入れていたWECK瓶に、どんなふうにタグをつけようかというところから相談させていただきました。
里香 タグが外れにくいほうがいいから、ちょっと太めの白いゴムを提案して、そこにカードを差し込めるようにしてね。
ろみ お店のロゴも里香さんの事務所の中村善郎さんにお願いして。
里香 ろみちゃんは自分でイラストとか書き文字とか描ける人だけど、1個、カチッとしたものをつくっておけば、ブランドの顔になってくれるから。
ろみ そのときお伝えしたイメージは、パリにあるんだけど少し田舎を意識したようなお店。ジャム屋だからって、赤いギンガムチェックのおばあちゃんがグツグツ煮ていますみたいな雰囲気にはしたくなくて、どこか都会の空気をまとったデザインにしたかったんです。
何パターンかつくっていただいて、一番最後に「これどう?」って言われたものが、イメージにぴったりで。
里香 ずっと、使ってもらえて光栄です。
ろみ 里香さんには、ジャムの包装の相談にものっていただきました。あのころ、イベントでジャムを売っていて、自分のやり方に限界を感じていたんだと思います。店舗を立ち上げるのを機に、商品として立派なものにしたかった。
里香 緩衝材はプチプチではなく、蛇腹状の紙で包んで、燃えないゴミを出さないとか。
紙の袋に入れて紐で結わえるスタイルもずっと続いてるね。
ろみ お客様にいまも新鮮に映っていて、特別感のあるラッピングですよね。
包装といえば、里香さんが提唱している「包装までが製菓です」っていう言葉は金言ですよね。仕事の上でも大切にしています。
里香 インスタでハッシュタグにもしていて、それを押すと、私の好きなラッピングがいつでも見られるようになっています。
ろみ わたしは20代の半ばに、里香さんの『フードラッピング』の本を夢中になって読み始めて、もう染み込みすぎちゃって、自分の考えなのか、里香さんの考えなのかがわからなくなるくらい、わたしの血肉になってます。
里香 最近の新しいパッケージは、自分で全部決めてる?
ろみ スタッフに相談することもありますが、だいたいパターンは決まっているので、一から全部考えるということは、いまは少ないですね。
里香 アーティストとのコラボも早かったけど、どうやって決めてるの?
ろみ 人からのご紹介でたまたま知り合いになった方ばかりで、せっかくだから一緒につくりましょう、って、そんな感じで始めてます。鹿児島 睦さんは、もとをたどると、里香さんがつないでくださった福岡の「B・B・B POTTERS(スリービーポッターズ)」のジャムイベントで知り会ったのが最初です。
里香 わたしも貢献してたんだ。
コラボ力もすごいけれど、ろみちゃんにも、独自の“テイスト”があるよね。味もパッケージも、本当に自分がいいと思うところからスタートしてないと、なかなかオリジナルのテイストにまではなっていかないから。
ジャファケーキとか、個人の趣味だと思うけど、そういうニッチなお菓子を商品としてつくり続けているところも、romi-unieのテイストにつながっていると思う。
ろみ なんでこんなに一生懸命ジャファケーキつくっているんだろう、と思うときはあるんですが、他では買えないので。
里香 自分がすごく好きなものだけれど、それを、みんなも好きなラインにいい感じで落とし込める。それこそがろみちゃんの才能だよね。
romi-unie の芽を育ててくれた人
里香 ところで、鎌倉にお店を開いたのはどうして?
ろみ シンプルにその頃、鎌倉に住んでたからです。あと、生活圏のなかにディモンシュ(20周年記念対談の第1回に登場)がある暮らしを送りたかったっていうのも大きかったですね。
里香 ディモンシュと言えば、カフェブームと並行してフリーペーパーのブームもあって、その先駆けがディモンシュだったんだよね。まだフリーペーパーという言葉自体、誰も知らなかった時代。「ちらし」という言葉はあったけど。
ろみ 雑誌『オリーブ』のモノクロページにあるコラムがいっぱい詰まったようなつくりで、わたしも大好きでした。
里香 ディモンシュがお店を開いたころは、街場の喫茶店がどんどん消えていく時代で、テレビのニュースにもなるくらいだった。そんなたいへんな時代に店をやりながら、フリーペーパーを始めて、それが少しずつ人を引き寄せて、ブームにまでなって、カルチャーをつくった。すごいことですよ。
ろみ 私もそんなディモンシュのカルチャーの香りや、里香さんの本が発していた空気に導かれるようにして、いまの自分が形づくられてきたんだと思います。romi-unieの芽を育てていけたのは、新しいチャレンジをしていた先輩方がいてくださったおかげです。
里香 それにしても、お店がこれだけ長く続くということは、つくづくろみちゃんは実店舗に向いてたんだね。
ろみ うっかり続いたというのが正直なところなんですけど。
里香 最初の物件を一緒に見に行ったとき、ろみちゃんには、店舗勘というか、物件勘もあったんだな、っていまになって思う。スケルトンの物件で、ふつうの人なら、どこがいいの? って思うようなところでも、ここにキッチンをつくって、この辺りにレジを置いたほうがいい、みたいに未来が見えて、実際、素敵にできちゃう。
ろみ 物件が「ここはいい、ここだ、ここだ」って言うんですよ。
里香 それは、ちょっとやばい(笑)。
ろみ いまの小町通りの物件がそうでした。最初の扇が谷の物件も、不動産屋さんが間取り図を見せてくれたとき、キラッて光って見えたんです。
里香 たのもしい(笑)。それも大切な能力だからね。いつも物件情報とにらめっこしてるわけじゃないでしょ。
ろみ うっかり借りたくなるといけないので、いまはもう見ないようにしています。
里香 もったいない気もするな、せっかくの能力を封印するのは。
ろみ 店舗デザインのアドバイザーとか、できたら楽しそうですね。
里香 実績があるから、頼んだほうは心強いと思う。わたしに店を開く予定があれば、お願いしたいくらい。
ろみ そんな日が本当に来ないかなぁ。ご依頼、お待ちしてますね(笑)。
福田 里香(ふくだ りか)さんプロフィール
菓子研究家。書籍や雑誌、onlineへのレシピ提供にはじまり、お菓子のレシピ開発など食にまつわるモノ・コトのディレクションを手掛ける。『新しいサラダ』(KADOKAWA)、『民芸お菓子』(Discover Japan)など著書多数。料理本のほか、映画や漫画などの中で取り上げられる「フード表現」の法則や意味を紐解いたコラム集が文春文庫から12年振りに『物語をおいしく読み解く-フード理論とステレオタイプ50』と題して復刊。
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